Top >からくり人形

からくり人形

上車のからくり人形について

鷲尾徳光

それぞれの写真はクリックすると拡大できます。

麾振り人形
麾振り人形の糸

 上之町の山車からくりは、麾振り人形1体、蓮台回し人形2体、綾渡り人形1体の計4体からの人形で構成されています。

 上之町の山車からくりには、二つの大きな特徴があり、通称「綾渡り」とも言われ全国的にも数が少なく大変珍しいものの一つであると思います。私が知る限りの綾渡りと言われるからくりは、犬山・一宮・半田亀崎・名古屋戸田・知多岡田・秋の高山祭り等に見られ、それらの特徴は綾渡りの綾棒が木の枝、梯子状のものからつけられているものがほとんどですが、上車のものは綾棒が山車の天井から突き出しているように取り付けられているのが、まず一つの特徴であります。

 天井裏を綾の糸が滑車を通り、山車の屋根を支えている四本の柱のうち、後方二本の柱の中を通っており、山車の二階部分において人形を操ることになります。糸が途中で切れたり滑車から外れたりすると、天井の格子板の部分三箇所が外れるようになっており、そこから手を入れて手探りで直さなければなりません。糸の状態が悪いときには、山車の屋根部分を外して直さなければならなくなり、私を始め人形方のものは、祭り当日には「今日一日糸が外れたり切れない事」を祈っているばかりです。

その歴史

 残念なことに上之町の山車からくりの制作された年代、作者などは、はっきりとしたことがわかっておらず、山車の屋根の棟木に文化七年(1810年)とあり、からくりについても、ほぼ同じ時期に制作されたものだと推測できます。現在では、その当時の操り方についての文献や資料等もなく、どんな風にあやつっていたのか町内の先輩方の口伝えや、感に頼った操作しか伝えられていないのが現状です。私個人としては、以前は他の地域の綾渡りの機構とよく似たものであり、その操作もほぼ同じものであったのではないかと思っています。作り手が操り手の「感」に頼ったものを制作するとは思えないし、誰がやっても簡単に渡って行くものだと思っているからなのです。

 その昔、昭和54年頃、老朽化した人形を、七代目玉屋庄之衛さんに制作していただきましたが、老朽化した以前からの人形とは身体の構造、腰のそらせ方の仕組みがまったく違うものに変わり、誰が操っても「かかる」綾渡りのからくりになりました・・・・
しかし、この時の注文の仕様には、私自身もまだ子供でその経緯についてはまったくわかっておりませんが、出来上がった人形について当時現役の人形方であった方々から「受け継いできたものとは違う」という意見が出され、それ以降何年もかけ、個人的に以前のものと同じ機構の人形をHさんが復元されました。
その当時、町内の予算で製作した人形を山車から下ろして使用しないということについては賛否両論あったようですが、昭和63年からは受け継がれてきた以前の機構の人形を使用して行こうということなり、Hさんと私が制作したもので、からくりをおこなっていくことになりました。
現在は、新しく制作された(平成九年 伊藤久重・作)綾渡り人形を使用しています。

人形の渡り方

蓮台あやつり糸と正面左側後方の柱部分の通り道
綾棒とあやつり糸の正面右側後方の柱部分の通り道蓮台に人形が乗った状態

 他の地域のからくりのほとんどが、一本目から二本目に渡る時、そのまま人形が「ぐるっと回って」二本目の綾に足がかかり、それから一本目に付いている腕を離すのに対して上之町のものは、二本目に足がかかる前に一本目から腕を離なす訳です。高価な人形が「宙を飛んでいる!」のが二つ目の特徴であり、このからくりの機構については全国的にも例を見ないものでもあります。

 ではなぜ「宙を飛ぶ!」のか、それは機構上?そうなっているからなのですが、普通に一本目の綾棒の糸を引くと二本目にとどく前に人形の腰が折れて棒に届かないのです。
「じゃあ、どうやって二本目の綾棒に人形をかけるのかって?」人形の腰が折れる前に二本目の綾棒に飛び付かせるのです!
一本目の綾棒の糸を引くだけでなく、引いたらすぐに戻すのです。そうすると人形に勢いがつき、二本目の綾棒に飛び付く(我々はかかるとかかけると言います)というわけです。しかしこの操作は非常に難しく、強く引きすぎると二本目の綾棒にはじかれてしまいます。また、弱すぎると飛ぶ前に一本目の綾棒から、ずるっと人形が落ちてしまい上手く綾棒をわたっていかないのです。
これをいかに、ふわりと一本目の綾棒から二本目の綾棒に飛び付かせるのは、まさに至難の技であり、何年もかけて自分の身体や経験で糸の引き戻しのコツを覚えていくしかないのです・・・・・・。

唐子の綾渡り(飛びつき)その1唐子の綾渡り(飛びつき)その2唐子の綾渡り(飛びつき)その3

 この伝統の綾渡りの山車からくり型が、愛知県津島市の秋まつりに繰出す上之町の上車の綾渡りとして、この先も連綿と受け継がれていくものと確信しております。そしてこの上車の綾渡りをうまく操り成功させることは、我々、上車の人形方の誇りでもあります。

 

戻る